2019年5月14日

皆様こんにちは。
ゴールデンなウィークもあっ、という間に終わりました。皆様ゆっくりお休みされましたでしょうか。
その反面、今年は連休が例年よりも長かったこともあって、前もってお医者さんがいわゆる「5月病」に警鐘を鳴らしていました。
実際連休明けには「退職代行サービス」が盛況ともききます。

植物

そこで、たまたまなのですが、元気が無い時に読めば効きそうな本を見つけたので〈ディア文庫〉でご紹介します。

念の為のご説明。鞄工房山本革製品ブログの企画〈ディア文庫〉とは。18色展開の鹿革ブックカバー(15,000円/税別)に、
色ごとに本を選んで「ブックカバー + 本」という新しい形のギフトを提案しています。今回でちょうど10回目。

紫根の鹿革ブックカバーに、水木しげる『ほんまにオレはアホやろか』

紫根のブックカバー

私がこの本と出会ったのはたまたまです。
〈ディア文庫〉の企画では18色に合わせた18冊を選ぶのですから、バラエティ豊かにしたい。
日本の小説に随筆、海外長編に短編、歴史もの、料理本、ミステリーなど。色々とリサーチしました。挿絵があるものか、マンガも入れたいなと思って探したら、
水木しげるのいくつかの著書が文庫本になっていることを知りました。そこでこの自伝を選択。ところが、ネットで購入し届いたものは、マンガじゃない。
注文し間違えたようです。せっかく手元にあるし読んでみたら、途方もない漂流記でした。
私は昔アニメでゲゲゲの、を観ていたくらいで大してこの方の経歴など知らなかったわけですが、 大変な方だったのですね。

自然

不思議な力強さ、生命力

全体を通じて印象に残るのは、何があろうと悪いほうに考えない感覚。では前向きなのかと言うと、そうでもない。やんわりとしています。
不思議なバランスです。失敗しても、くよくよしない強み。勉強ができる、できない以前の話で「朝起きられないから」学校や仕事が続かない。
そこで落ち込まない。でも忘れているわけではなく、「自分は朝起きられない」ということを受け止めてできる範囲で対策をとる。例えば、夜間学校に行くとか。

夕暮れ

(夕焼けは、朝日よりもバリエーション豊かかもしれません。あたり全体が紫色になった数秒間)

これは、強い。しなやかです。ひとに合わせるわけではなく、完全にわが道を行っているのに、どこにでも(ある程度は)居られる順応性。でも、
合わないなと思ったらすっぱり諦めるいさぎよさ。ある意味動物的な感覚で「苦境を乗り越える」というよりも「なんやかんやを生き抜いて、流れ」ていきます。

そこで思いました。落ち込んでいるひとがいるとして、前向きになりましょう、みたいなことを言っても実践するのはそう簡単な話じゃない。
それよりもこの緩やかな、抗わない感じ、しかも全部実体験に基づいた話、というのが効く薬になるのでは、ということです。

作者の体験したことは相当ドラマチックなのですが、何があってもとくに落ち込まない、へこたれない。好きなこと(絵を描くこと)はあっても、
それによる立身出世にメラメラ燃えているというのでも無さそう。生きて帰れる可能性の低い戦地に送り込まれ、そこでも落ちこぼれるけれど、
原住民と友達になりそこで暮らそうかとさえ思う。左腕を失くしても、フツーに両親に伝える。

版画のような細かいタッチ

(この入れ墨のような、昔の版画のような細かいタッチ。この本を読んでから見るとますます只事では無い気がしてきます)

漫画家として生活が安定する前の時期に、借金はあるし原稿料もなかなかもらえない時期は辛そうでしたが、曰く、
「そのころのぼくをささえていたのは、ただ、自信だけだった。作品の自信ではない。生きることの自信だった。しかし、これに悲愴感はなかった。
むしろ「絶対に生かされる」という楽天的な信念だった。なにしろ、幸いなことに健康だったから、何を食ってもうまい。
締切の間のある時は、自転車で墓場だとか古寺をまわる。古い墓に小便をひっかけると、その墓にナニモノがうめられているか、ぼんやりわかる。
という、めずらしい特技をもっていたから、人のいない時に墓場に小便をひっかけて、死者の声らしきものをきくのもたのしみの一つだった。」(引用)

女性、男性、年代問わず、スイスイと読み進んで、終わったらなんとなく晴れやかな気分になりそう。他の登場人物もクセはあっても悪意が無いところが、
笑ってしまうようなくだりもあります。悩める老若男女に一読をおすすめしたいです。
最後に、なんでこの本が紫根のブックカバーに組み合わされているかと言うと、なんとなくこの作者がこんな色な気がしたからです。なんとなく。

鞄工房山本 二見

水木しげる「ほんまにオレはアホやろか」