皆様こんにちは、鞄工房山本の晴之です。
今回は鹿革製品やビジネスバッグのお話ではなく、ランドセルのお話です。それも、ランドセルを作る機械のお話です。
腕ミシン、平ミシン、コンピューターミシン
ランドセルをつくるのに必要な工具や機械はたくさんあります。その中でも必要不可欠であり機械の花形とも言えるのが「ミシン」。
鞄工房山本では大きく分けて「平ミシン」、「腕ミシン」、「コンピューターミシン」という3つのミシンを使い分けています。まずはそれぞれのご紹介。
平たいものを縫うのに「平ミシン」
工房で使っているものなので、少し大きくいかつい形にはなりますが「ミシン」といえばこの形のものを思い浮かべられる方が多いのではないでしょうか。
学校の家庭科の時間などで使っていたのがこんな「平ミシン」です。革や生地を台に置いて縫えるため、直線や曲線など、平面上の動きはお手の物です。
立体的な動きが得意な「腕ミシン」
おや、平ミシンのように台が付いておりません。代わりにミシンから1本、細い腕のようなものが突き出ている「腕ミシン」。
この腕に縫いたいものを沿わせて縫うことができるので、立体的なものを縫うのに適しています。箱型の角なんてお手の物です。
職人さんとコンピューターで協力、「コンピューターミシン」
そして「コンピューターミシン」。
縫いたいデザインをプログラミングしてコンピューターに縫ってもらいます。かと言って、決して全自動ではなく糸調子などを職人さんが微調整しながら進めます。
今日の主役はとある一台のコンピューターミシンです。
平成元年にやってきたミシン
昔々、どれぐらい昔かと言うと今からちょうど30年前、元号が平成に変わると小渕官房長官から発表された1989年のことです。
鞄工房山本の現社長もその頃はまだ30代、長男が生まれた年でした。そんな平成元年8月、鞄工房山本では初めてのコンピューターミシンが工房にやってきたのです。
その名前は「ブラザー361」くん。ブラザー工業株式会社製です。
当時の工房は、現在の香久山の麓にある新しい工房ではなく、先代の自宅敷地内にある小さな工房(現在は第二工房として稼働中!)。
そこには平ミシンや腕ミシン、他にも小さな機械はありましたが、コンピューターを搭載した大きな機械がやってくるのは初めてのことでした。
世間的にもコンピューターミシンの取り扱いがほとんど無かったそうです。
働き者のコンピューターミシン「ブラザー361」くん
それから「ブラザー361」くんは本当によく働いてくれました!鞄工房山本にとっては初めてのコンピューターミシンです。
やってきた当初はみんなに期待されながらいろんな仕事を任されたのでしょう。そのたびに失敗したり、上手くいったり。私たちのお仕事と同じです。
彼と一緒に、彼のおかげで私たちは成長してくることができました。彼が、鞄工房山本がランドセルの世界で皆様に知っていただけるようになるための
足がかりになったのは、想像に難くありません。ちなみに、最近ではランドセルの背中や仕切りを縫ってくれていました。
鞄工房山本の新工房が建ったときも、奈良や東京にショールームを開いたときも、私たちは彼と一緒に過ごしてきました。
そんな長い時間の中で、機械ですから壊れた時は修理して、部品がなければ取り寄せて、それはそれは大切にしてきました。
ですが年月が経ち、メーカーさんでも部品の取り扱いが無くなり、とうとう基盤の調子まで悪くなってきてしまったのです。
ブラザー361くんは令和元年6月、コンピューターミシンの寿命を迎えたのです。
平成を駆け抜けたコンピューターミシン
とうとう動くことができなくなってしまった働き者のブラザー361くん。ついこの間、太陽がよく照る日にお別れをしました。
思えば平成元年8月から令和元年6月まで、まるまる30年間の平成時代を駆け抜けてくれたんですね。ありがとう、よくがんばってくれたね。
業者さんにトラックに乗せて持っていってもらいます。
現社長は、会社がまだまだ小さかった頃から今のようになるまで、ずっと一緒にがんばってくれた思い入れの強い機械だと言っていました。
そんな思いがあったからこそ、ここまで動き続けてくれたのかもしれませんね。
時代を感じさせる文字盤。驚くべきはプログラムを5.25インチのフロッピーディスクから読み取っていたということ。
本当に長い間お疲れ様でした、ありがとう。
時代は変わったり変わらなかったり
別れがあれば出会いがあります。
こちら、ブラザー361くんのお別れと同時にやってきた新しいコンピューターミシンです。
彼には肩ベルトの縫製をまずはお願いします。
どんどん仕事を覚えて、偉大な大先輩の跡を継いでいってくださいな!
そんな風に移り変わる景色があれば、一方で30年よりももっと前から変わらない景色もございます。
おそらく当工房で最長老の漉き機さんです。話によると、先代がランドセルの専業を始めようとした時から工房にいるとか。それが50年以上前のことです。
しかもその時も先代は中古で手に入れたらしく……一体おいくつですか?
「ものを大切にする」ことは今も昔も変わらない大切なこと。実はその気持ちが、丈夫なランドセルをつくるのに一番必要な思いなのかもしれません。
小学生の皆様、ランドセルをはじめとする自分の身の回りのものたちをこれからも大切にしてくださいね。
鞄工房山本 晴之